ブランディングにはさまざまなフレームワークが存在します。なぜフレームワークを活用する必要があるのか、具体的にどう活用すればよいのか、疑問に感じたことはないでしょうか。
今回は、ブランディングに活用できるフレームワーク10選を活用例とともに紹介します。ブランディングにフレームワークを活用するポイントとあわせて見ていきましょう。
なぜブランディングにフレームワークを活用するのかを理解するには、「ブランディングとは何か」「フレームワークとは何か」といった基本を押さえておくことが大切です。フレームワークを活用する根本的な意義について解説します。
ブランディングとは、自社の魅力や商品・サービスの価値を広く浸透させ、定着を図ることを指します。たとえば、ハンバーガーと聞いて思い浮かべるファストフードチェーンは多い人でも数社ではないでしょうか。実際にはハンバーガーを提供しているお店は数多くあるものの、最初に想起されるお店はそう多くはないのが実情です。「この商品といえばこの企業/ブランド」といったように消費者の意識下に印象づけ、購入する商品の有力な候補に挙げてもらうことがブランディングの狙いといえます。
フレームワークとは、考え方・分析方法・課題解決方法・意思決定プロセスなどについて共通認識を形成するための枠組みのことです。一例として、ある商品の売れ行きが伸び悩んでいるケースを考えてみましょう。伸び悩んでいる原因を従業員が各々の感覚で分析した場合、ある人は「デザインが古めかしいからだろう」と言い、別の人は「価格が高いからだと思う」と言ったとします。これらの意見は各人の主観にもとづいており、客観性が乏しいと言わざるを得ません。思考のプロセスを可視化するには、なんらかの統一した枠組みが必要です。
関係者間で共通のフレームワークを活用することで、より客観性の高い分析や意思決定がしやすくなります。このように、フレームワークは各人の頭の中にある思考を見える形で示したものと捉えてください。
フレームワークを活用することで得られる主な効果は、「情報の共有化」「意思決定の円滑化」「客観性の担保」の3点です。統一した枠組みに沿って思考を積み上げていくことで、どのような思考プロセスをたどって結論に達したのかを共有しやすくなります。結果として意思決定をスムーズに進められ、事業のスピード感が増すのです。
また、フレームワークを活用することによって、思考を要素ごとに細分化しやすくなります。一つひとつの判断がどのようなプロセスで下されているのかを後から確認できるため、検討すべき事項の漏れ重複を複数人でチェックできるでしょう。こうして客観性を担保することにより、再現性の高いブランディングの戦略や施策を講じやすくなるのです。
ブランディングに活用できる代表的なフレームワーク10選を紹介します。商材の特性やブランディングの方向性などによって活用すべきフレームワークは異なるため、さまざまなフレームワークを知っておくことが大切です。
ポジショニングマップとは、自社と競合他社の立ち位置を把握し、独自の価値を創出したり競合との差別化を図ったりする際に用いられるフレームワークです。商品やサービスの価値や特性を決定づける重要な2要素を縦軸と横軸に取り、自社および競合他社がどの場所に位置づけられるかを示すことで、各社の立ち位置を客観的に把握しやすくなります。
ある商品の特徴を決定づける要素として「価格」と「デザイン」を取り上げるケースを考えてみましょう。自社商品は「価格は業界平均並み・デザインは保守的」という立ち位置だったとします。競合のA社は「価格は高め・デザインは保守的」、競合のB社は「価格は安め・デザインは革新的」だったとして、3社の中でA社が最も高いシェアを占めていた場合、どのような仮説が成り立つでしょうか。
消費者は革新的なデザインよりも、保守的なデザインを好むと推察されます。商品に安心感や信頼性が感じられれば、価格が高くても購入する可能性は十分にあるでしょう。よって、自社が取るべき施策は「デザインの刷新」ではなく「より安心感・信頼性を感じられる訴求」だと判断できるのです。
大手ゲームメーカーA社が採用した戦略を元に、3C分析の進め方を考えてみましょう。A社はコアなゲーマー層ではなく、家族で楽しめるゲームなど非ゲーマー層を取り込むブランディングへと路線を転換し、成功を収めました。この路線転換を3C分析で捉えると、次のように説明できます。
・自社の強み:著名なキャラクター資産を保有している
・顧客の状況:コアなゲーマー層とスマホゲームを中心とした非ゲーマー層に二極化
・競合他社の状況:ゲーム機のハイスペック化に伴いコアゲーマー向けの開発競争が激化
上記を総合的に捉えると、「コアゲーマー層向けの製品はレッドオーシャン」「一方で非ゲーマー層向けの製品はまだ空きがある」といった状況が見えてくるはずです。A社はファミリー層向けのゲーム機やゲームソフトを次々と市場に投入し、狙い通りに成功を収めたのです。
PEST分析とは、自社を取り巻く外部環境が中長期的に与える影響を予測するためのフレームワークです。具体的には、自社が今後受ける可能性のある影響を次の4つの観点から分析します。
・Politics(政治的要因)
・Economy(経済的要因)
・Society(社会的要因)
・Technology(技術的要因)
ブランディング施策を長い目で捉えた場合、現在の市場の状況だけでなく、今後の動向も見据えて検討しておく必要があります。ブランディングは一度方向性を決めた容易に変更できない可能性が高いことから、さまざまなリスク要因を踏まえて検討する上でPEST分析が活用されているのです。
SaaS(Software as a Service)を例に、PEST分析の例を考えてみましょう。
・政治的要因:政府によるDX推進、主に中小企業を対象としたIT導入補助金
・経済的要因:クラウドサービス市場が急拡大しつつある
・社会的要因:クラウドサービスに適応する人と抵抗を感じる人が混在している
・技術的要因:AIやIoTが発展する一方で、レガシーシステムの課題が残る
上記の分析から、SaaS業界にとって政治的・経済的要因は追い風であるものの、社会的要因・技術的要因にはリスクが潜んでいることが見て取れます。クラウドサービスの導入を加速させるには、レガシーシステムのリプレイスをどう進めるか、クラウドサービスのメリット面をどのように訴求するかが鍵を握るでしょう。
SWOT分析は、事業やブランドの現状をプラス要因とマイナス要因の両面からバランスよく分析するためのフレームワークです。具体的には、次の4要素にもとづいてプラス要因・マイナス要因を書き出していきます。
・Strength(自社の強み=内部のプラス要因)
・Weakness(自社の弱み=内部のマイナス要因)
・Opportunity(外部の機会=外部のプラス要因)
・Threat(外部の脅威=外部のマイナス要因)
ブランディングは「自社の強みを発揮でき、かつチャンスもある」要素を最大限に活かしつつ、「自社の弱みが脅威にさらされるリスク」をできるだけ回避することで成功確度が高まります。SWOT分析は、自社の価値や課題を明確にする上で有効なフレームワークといえるでしょう。
宅配運送サービスのB社を例に、SWOT分析の活用方法を考えてみましょう。
・自社の強み:全国に配送拠点を構え、高いブランド力がある
・自社の弱み:事業の柱が宅配運送サービスのみである
・外部の機会:EC利用者が増加している
・外部の脅威:ドライバーの担い手不足が深刻化している
B社の強みである物流網を今後も活かすには、ドライバー不足の問題を解決することが急務といえます。一方で、EC利用者の増加により宅配配送サービスは今後も高い需要が見込めるでしょう。テクノロジー系企業とタッグを組み、自動運転車による配送やドローン配送の技術の開発に注力することによって新たな事業の柱を築けるだけでなく、急増するEC利用者のニーズやドライバー不足の問題にも対応できる可能性があります。
コアコンピタンス分析とは、自社の競争優位性を可視化するためのフレームワークです。具体的には、以下の5つの視点から自社ブランドの強みや弱点を明らかにしていきます。
・模倣可能性(Imitability)
・移動可能性(Transferability)
・代替可能性(Substitutability)
・希少性(Scarcity)
・耐久性(Durability)
たとえば、「他社よりも価格が安い」という強みは、競合他社の値引きによって容易に無効化されてしまうという点で希少性が低いといわざるを得ません。コアコンピタンス分析を通して、自社の強みが弱点にもなり得るリスクを洗い出せるのです。
カメラフィルムメーカーのC社は、デジタルカメラの台頭によって窮地に追い込まれた時期があります。しかし、フィルム製造の工程で培ったコラーゲン生産技術は容易に模倣できるものではなく、希少性が高いと判断しました。また、美容分野は普遍性が高く、時代が移り変わっても価値が揺るがない(代替可能性が低い)と判断したことから、同社の技術をスキンケア化粧品などの分野に活用したのです。自社のコアコンピタンスを見極め、柔軟に活用したことでリブランディングに成功した事例といえるでしょう。
バリューチェーン分析とは、商品の製造から流通・販売までの流れを一連の価値として捉え、どの工程が価値を生み出しているかを分析するためのフレームワークです。ブランディングに活用する際には、競争優位性の強化を図る際によく用いられます。
大手家具量販店をグローバルに展開するD社は、バリューチェーン分析を駆使して独自の事業スタイルを創出した事例として有名です。同社のバリューチェーンは以下の流れになっています。
設計 → 調達 → 製造 → 物流 → 販売
従来、多くの家具メーカーは「デザインのこだわり」「材料へのこだわり」「品質へのこだわり」といった、設計・調達・製造の工程に付加価値を見出していました。D社はインテリア業界の中でいち早く「物流」に価値を見出し、顧客自身が組み立てる方式の家具を販売したのです。物流の効率化を図るだけでなく、顧客自身の手で組み立てる作業を通じて家具への愛着が深まると考えました。家具は完成品を販売するものという業界の常識を覆したことにより、世界的な家具メーカー・販売店として成長を遂げたのです。
ライフサイクル理論とは、商品やサービスが市場に認知されてから衰退していくまでのサイクルにおいて、現状どの時期に該当するかを分析するためのフレームワークです。具体的には、プロダクトライフサイクルを次の4段階に分けて捉えます。
・導入期:知名度が低く需要も限られている
・成長期:需要が高まり売上が急速に伸びる
・成熟期:市場に商品が行きわたり成長が鈍化する
・衰退期:競争激化や顧客の嗜好の変化などに伴い市場から撤退する
ブランディングにおいては、自社商品がどの段階にあるかによって講じるべき施策が異なります。現状の自社に合った施策を検討する際によく用いられる手法です。
ライフサイクル理論を活用したブランディングについて「テレビ」を例に考えてみましょう。テレビはすでにあらゆる世帯に行きわたったことに加え、近年では地上波放送を見ない人も増えていることから、衰退期に入りつつある製品といえます。成長期や成熟期であれば、「より高性能」「より低価格」といった商品ブランディングが適切かもしれません。しかし、衰退期に突入した製品の場合は「いかにして市場に残るか」が重要なポイントとなります。地上波チューナー非搭載で動画配信ストリーミングサービスの視聴に特化したモデルを販売するなど、ユーザーニーズをきめ細かく捉えたブランディングが求められるでしょう。
アンゾフの成長マトリクスとは、市場/製品と新規/既存の2軸において、どの象限で戦略を策定するべきかを明確にするためのフレームワークです。具体的には、次の4象限のうち自社の強みが活かせるフィールドを検討します。
・新市場における新規商品
・新市場における既存商品
・既存市場における新規商品
・既存市場における既存商品
近年、アメリカやヨーロッパにおいて日本酒の人気が高まっています。日本酒は日本国内においては「既存市場における既存商品」であり、爆発的に売上を伸ばすのは容易ではありません。そこで、白ワインに代わる「東洋のエキゾチックなお酒」として売り出すことにより、海外への販路拡大を試みたのです。「新市場における既存商品」へとブランディングの方向性を転換した好例といえるでしょう。
ブランドの扇とは、ブランドが提供している価値と顧客が求めている価値を両面から理解するためのフレームワークです。ブランドの価値を次の要素に分解することで、ブランドが約束すべき価値を見極めるために用いられます。
・ブランドターゲット:顧客は何を求めているか
・ブランドエッセンス:ブランド価値の核心
・ブランドパーソナリティ:ブランドの世界観・雰囲気
・情緒的価値:ブランドが提供する感覚・気分
・機能的価値:ブランドの物理的な効用やメリット
カフェチェーンを展開するE社では、提供するコーヒーの品質だけでなく店内で過ごす空間の演出に注力しています。ブランドの扇に当てはめた場合、その理由が明確になるはずです。
・ブランドターゲット:上質な空間でリラックスしてコーヒーを楽しみたい人々
・ブランドエッセンス:自宅でも職場でもない第三の場所
・ブランドパーソナリティ:上質だがリラックスできる空間
・情緒的価値:くつろぎ・安らぎ・スタイリッシュなイメージ
・機能的価値:アプリでカスタムオーダーできる独自のシステム
「カフェチェーン=コーヒーのおいしさが最優先」といった既成概念に囚われず、店内という「場所」の重要性をE社は見出したのです。ブランドの価値をどこに見出すかを検討する際の重要なヒントとなるでしょう。
カスタマージャーニーマップとは、顧客から見た場合のブランド体験を時系列で可視化していくフレームワークです。顧客の期待と自社が提供する価値のギャップを発見し、ブランディングに効果的なタッチポイントを見出したり、ブランディング施策が抱えている課題の解決に役立てたりするために用いられます。
宅配弁当の定期配送サービスのカスタマージャーニーを考えてみましょう。
・Discover(気づく):ポスティングチラシで見かけたサービスが気になり始める
・Explore(探る):Webサイトでメニューや価格をチェックし、他社商品と比べる
・Buy(購入):定期配送を申し込む
・Use(利用):宅配弁当が届き、実食する
・Ask(リピート購入):週1回から週2回に増やしたい→手続き方法は?
・Engage(魅了される):×
上記の例では、顧客はリピート購入を決断したにもかかわらず、手続き方法が不明のためEngageの段階にいたっていません。弁当のパッケージや同梱するカードに配送回数の追加申し込みが可能な二次元コードを掲載するなど、顧客体験の改善が必要であることがわかります。
ここまで紹介してきたとおり、ブランディングに活用できるフレームワークにはさまざまな種類があります。では、フレームワークを活用する際にはどのような点を意識する必要があるのでしょうか。とくに重要度の高い3つのポイントを紹介します。
活用すべきフレームワークに正解はありません。実際には業種・事業規模・顧客層など、複数の要因によって効果的なフレームワークは異なります。自社の状況や商材の特性に応じて、目的に合ったフレームワークを活用しましょう。最適なフレームワークを選定できるようにするためにも、さまざまなフレームワークとその活用目的、活用方法を知っておくことが大切です。
フレームワークは用途を特化したものが大半のため、1つのフレームワークだけであらゆる方向から分析や検証を行うことはできません。分析・検証に抜け漏れが生じないようにするためにも、複数のフレームワークを組み合わせて活用しましょう。異なるフレームワークを並行して活用することで、より複合的な視点からブランディングの方向性や具体的な施策を検討しやすくなります。
フレームワークは一度活用しただけで終わるのではなく、分析と改善を繰り返して調整していくことが大切です。ブランディングの戦略や計画を策定する時・実際にブランディング施策を実行した時・事後に振り返りを行う時など、それぞれの段階でフレームワークを活用しましょう。PDCAサイクルを回して改善を繰り返す過程において、情報共有・意思決定の円滑化・客観性の担保といったフレームワークの活用メリットが発揮されていくはずです。
今回紹介した10種類のフレームワークは、必ずしもブランディングのためだけに提唱されたものばかりではなく、マーケティングや営業戦略などを策定する際にも活用される場合があります。こうしたフレームワークをブランディングに活用することで、マーケティング戦略や営業戦略を検討する際にも連続性をもって意見交換をしやすくなるでしょう。今回紹介したフレームワークを、ぜひブランディングの強化に役立ててください。