BtoCにおけるブランディングの重要性が広く認知されつつある一方で、BtoBブランディングに関しては「ピンとこない」「何から取り組めばよいのか?」といった印象をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
今回はBtoBブランディングがもたらす効果や具体的な進め方、成功させるためのポイントをわかりやすく解説します。BtoBブランディングにおけるクリエイティブ制作事例もあわせて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
はじめに、BtoBブランディングの定義やBtoCブランディングとの違いを押さえておきましょう。BtoBにおけるブランディングのイメージを大枠でつかんでおくことが大切です。
ブランディングとは、ターゲットに狙い通りのイメージを想起させ、統一されたイメージを定着させるための一連の活動や施策のことを指します。ターゲットがある分野の商品やサービスを求める際、第一想起してもらえる状態にもっていくことがブランディングに取り組む主な目的です。ブランディングに成功することは強力な差別化要因となるほか、企業イメージの堅持や、消耗戦となりやすい価格競争の回避などにも寄与します。
BtoBブランディングとBtoCブランディングの大きな違いとして、ターゲットが挙げられます。BtoCのターゲットは一般生活者であるのに対して、BtoBでは取引先やクライアント、従業員、求職者、株主、金融機関といったステークホルダーがターゲットです。
ただし、ステークホルダーも一人ひとりが生活者であることに変わりはありません。自社を第一想起してもらい、取引先や出資先、あるいは入社先の候補として挙げてもらうことがBtoBブランディングに取り組む主な目的です。
BtoBブランディングに成功することによって、具体的にどのような効果が得られるのでしょうか。主な9つの効果について解説します。
自社ブランドが確立されれば、幅広いステークホルダーに自社の存在や提供価値を知ってもらえます。自社やその商品・サービスを直接知らない層にも存在を知ってもらえるため、ビジネス機会の拡大が見込めることが大きなメリットです。
たとえば、新たに設備やサービスを導入したいと考えた際、経営者や購買担当者はまずいくつかの候補を挙げるはずです。このとき候補に挙がった企業は将来の取引先となる可能性が高い反面、候補に挙がらなかった企業が後から候補の1つに浮上する可能性は低いといわざるを得ません。BtoBブランディングの成功は認知度の向上を促し、ビジネス機会の拡大を図る上で重要な要素といえます。
BtoBブランディングの成功は、新規顧客の獲得にも寄与します。コーポレートブランディングは企業イメージと密接に関わっており、多くのビジネスパーソンにとっての企業イメージを決定付けるケースも少なくありません。
以前から好印象を抱いていた企業は、新たな取引先の候補として挙がりやすくなります。このように、BtoBブランディングは潜在顧客の記憶や企業イメージを大きく左右する一因となり得るのです。
企業としてのブランドが確立されていれば、競合他社との価格競争に巻き込まれるリスクを低減できます。企業として提供している価値を広く知られることが信頼の醸成へとつながり、価格によらず選ばれる存在になれるからです。
価格競争に突入する大きな要因の1つとして、価格以外の条件に大きな差が認められないことが挙げられます。企業としての知名度や提供価値への信頼感といった要素が、価格以外の付加価値を高める上で非常に重要な役割を果たすことは想像に難くありません。
BtoBブランディングの成功は、営業活動におけるリードタイムを短縮する効果をもたらします。見込み顧客にとって比較対象となるライバル社が減ることにより、契約に至るまでの意思決定が円滑に進みやすくなるからです。
実際、すでにブランドが確立されている企業と確立されていない企業では、商談時のスタート地点が大きく異なります。見込み顧客から信頼されている状態から商談を始められるほうが、成約までの期間を短縮できるのは明白でしょう。
ブランディング施策の成功は、自社のカルチャーを醸成にも役立ちます。自社ブランドへの理解が深まることによって社内の共通認識が形成され、コミュニケーションコストが下がるからです。自社ブランドは社内のコミュニケーションツールとして、強力な効果を発揮する可能性があります。
さらに、自社ブランドに根ざしたカルチャーが形成されていくことにより、ステークホルダーに向けて発信するメッセージも統一されていくはずです。どのような切り口・角度からも統一されたメッセージ性が伝わることにより、自社への信頼がいっそう高まっていくでしょう。
自社ブランドを強力に打ち出すことにより、人材採用をより有利に進めやすくなります。ブランドが浸透するにつれて、企業としての理念やビジョンを幅広い層に理解してもらえるでしょう。求職者についても同様の効果が期待できるため、自社の理念やビジョンに共感して入社を希望する人材が増えていくことが期待されます。
実際、就職先や転職先を検討する際に企業理念やビジョンを重視する人は少なくありません。唯一無二の理念やビジョンに共感してもらえることは、競合他社に優秀な人材を奪われるリスクを抑える意味でも有効です。
自社ブランドの確立には、意思決定を円滑化させる効果もあります。自社のビジョンや価値観が統一化され、共通認識が形成されることにより、判断のブレや意見の対立が少なくなるからです。
さまざまな施策上の判断や新企画の提案といったシーンにおいて、土台となる共通認識が組織内で形成されているかどうかは非常に重要なポイントといえます。自社ブランドへの理解を深めることは、確固とした共通認識を形成する上で欠かせない要素の1つです。
BtoBブランディングの成功は、マーケティング施策の成功確度を高める効果ももたらします。マーケティング施策を講じる際には、データにもとづいた判断が欠かせません。一方で、数値化・言語化されている領域は限られているのも事実です。データにもとづいて施策を講じれば、必ず成功できるとは断言できないのがマーケティングの難しい面といえます。
企業としてのブランド力が確立されていれば、数値化・言語化されていない部分についてもカバーできる可能性が高まります。結果としてマーケティング施策が効果を発揮する確率が高まり、売上伸長や事業拡大へとつながりやすくなるのです。
自社ブランドが確立されれば、ステークホルダーからの評価も高まります。投資家からも好感をもたれる可能性が高くなるため、資金調達がしやすくなる点が大きなメリットです。
投資家が投資先を決定する際には、直近の業績や事業領域の将来性といった面だけでなく、企業としてのイメージや提供価値などを総合的に捉えて判断するケースが少なくありません。BtoBブランディングの成功は、投資家にとって「ぜひ積極的に投資したい企業」として選ばれる確率を高める効果をもたらすのです。
BtoBブランディングの具体的な進め方について解説します。ブランディングと聞くと「ロゴを作成する」「キャッチコピーを考案する」といったイメージがあるかもしれません。しかし、こうしたアウトプットはあくまでも結果であり、ブランディング全体から見れば氷山の一角に過ぎません。BtoBブランディングの効果を最大限に引き出すためにも、しかるべき手順を踏んで進めていくことが大切です。
はじめに、市場や業界における自社の立ち位置を客観的に把握しておく必要があります。マラソン競技には必ずスタート地点とゴール地点があるように、まずはブランディングのスタート地点となる現状の立ち位置を明確にすることが大切です。
自社の立ち位置を把握する際には、アンケート調査を実施するなどして第三者の声を参考にするとよいでしょう。自社の願望や自己イメージに囚われることのないよう、多方面の声を参考にすることをおすすめします。
次に、ブランディングのゴール地点に相当する「浸透させたいメッセージ」を決めていきます。自社の強みや長所を洗い出し、形成したいブランドイメージから逆算してメッセージを決定するのがポイントです。
ブランディングを強化することは、「現状における自社の立ち位置」と「浸透させたいメッセージ」のギャップを埋めることを指します。このギャップを埋めるために必要なメッセージを決めるのは容易なことではありません。じっくりと時間をかけて話し合い、最適なメッセージを絞り込みましょう。
発信したいブランドメッセージが決定したら、まずは社内への周知を図り、浸透を促していきます。対外的にブランドメッセージを発信していく際、重要なポイントとなるのが一貫性です。一貫したメッセージを発信するためにも、インナーブランディングを徹底しておく必要があります。
部門や部署によって、自社のブランドメッセージに対する理解度に差が生じないよう注意してください。ブランディングは全社を挙げて取り組むべき施策です。たとえば「マーケティング部門は自社ブランドを十分に理解しているものの、営業部門の感覚は以前と変わっていない」といった温度差が生まれることのないよう、経営層や部門責任者が率先して動く必要があります。
ブランドメッセージを対外的に発信していくためのクリエイティブを制作します。ブランドメッセージを伝える上で最適な表現方法を選択し、ロゴやキャッチコピー、商品パッケージなどに反映させていくことが重要です。
クリエイティブを制作する過程で意見が対立したり、デザインなどの候補を決め切れないといった事態に陥ったりした場合には、必ずブランドメッセージに立ち返ってください。届けるべきブランドメッセージが十分に表現されているかどうかを軸に検討していくことで、個々人の見解の違いや意見の相違を解消しやすくなるはずです。
クリエイティブの仕上がりに問題がなかったとしても、発信する媒体や発信方法の選択を誤ってしまうとターゲットにブランドメッセージが届きません。自社のブランドイメージに合った媒体であるか、ターゲットに届きやすい媒体であるかを重視して、発信方法を選択することが重要です。
また、ブランドメッセージがきちんと理解されているか、定期的にアンケート調査などを実施して効果測定を行うことも大切なポイントの1つです。ブランドイメージに変化が見られなかったり、狙い通りのイメージが形成されていなかったりするようなら、クリエイティブやその発信方法を見直す必要があります。
BtoBブランディングにおけるクリエイティブ制作の事例として、マーケティング支援会社であるネオマーケティングの実践事例を紹介します。ネオマーケティングでは公式サイトのトップページに表示されるメッセージを見直すことにより、ブランドメッセージの発信方法を改善しました。
改善前のWebサイトトップページには、自社の特長寄りのメッセージが前面に打ち出されていました。マーケティングの会社であること、事業がビジネスを成功に導くことなど、自社が「何をしているのか」といった説明が中心になっていたのです。
たとえば「マーケティングで事業を成功させる」「リサーチを起点にしたマーケティング支援でビジネスの成功確率を高める」といったメッセージは、ネオマーケティングができることを大きな観点で述べたものです。全体的に概念的・抽象的なメッセージで占められており、見込み顧客に「相談してみよう」と思っていただくための決定打に欠けていました。
現在のサイトトップには「すべては相談からはじまった。」というタグラインが掲げられています。見込み顧客の視点に立ち、「相談しやすさ」と「相談した結果」を具現化することにより、ファーストコンタクトにつなげることを重視している点が大きな特徴です。
トップページに掲載する画像には、社員が相談を受けているシーンを採用しました。ビジュアル面においても「相談しやすさ」を強調することにより、見込み顧客が実際に相談する際の場面をイメージしやすくしています。発信したいブランドメッセージから逆算して制作されたクリエイティブの一例として、参考にしていただければ幸いです。
BtoBブランディングを成功させる上で、とくに重要なポイントを紹介します。下記の3点を意識することによって、効果的なブランディング施策を実現していきましょう。
BtoCとBtoBではブランディング施策におけるターゲットが異なります。一方で、ビジネスパーソンも結局は生活者の一人であり、コミュニケーションの基本がtoCと根本的に異なるわけではありません。BtoBブランディングだからといって、特殊な施策が必要になるとは捉えないことが大切です。あくまでも一人ひとりの担当者にどのようなメッセージを届けたいのかを重視しましょう。
ブランドメッセージは商品・サービスのキャッチコピーやセールスポイントの説明とは異なり、「印象に残すこと」が最も重要なポイントとなります。詳細に説明したり、具体的に伝えたりすることよりも、むしろいかに「伝えない」かを意識することが大切です。
何をしている会社なのかを伝えるのではなく、企業名を印象に残すことにコミュニケーション資源を集中させている点が大きな特徴です。このように伝えるべきメッセージを極限まで削ぎ落とし、強く印象づけることが成功のポイントといえます。
ブランドメッセージに耳当たりのよい言葉を選ぶのではなく、ターゲットにとってのメリットを具体的に盛り込む方法もあります。顧客から見た場合の「相談しやすさ」を前面に打ち出したネオマーケティングの事例のように、「何をしてくれる会社なのか」を合い言葉にすることで共通認識を形成しやすくなるからです。
ブランドメッセージを受け取るのは、すでに自社について知っている層だけとは限りません。ターゲットが行動を起こしやすくなるよう、具体的なメリットを伝えることで背中を押すメッセージにするといった方向性もぜひ検討してみてください。
BtoBブランディングとBtoCマーケティングにはターゲットの違いこそあるものの、一人ひとりのターゲットに自社のメッセージを浸透させていくという本質の部分は同じです。今回紹介した施策の進め方やクリエイティブ制作事例を参考に、自社が伝えたい・浸透させたいメッセージを打ち出してみてはいかがでしょうか。