ワークショップは協働作業が主体となるため、参加者同士の距離が近く気軽に意見交換がしやすいというメリットがあります。通常の会議は議題に沿って進行するケースが多いため、参加者各自が発言する機会やタイミングが限られてしまいがちです。有益なアイデアや意見を各自がもっていたとしても、口に出して表明する機会がなければ戦略や施策に反映させられません。
ワークショップを取り入れることで、協働作業を通して「こうしたほうがよいのでは?」といった意見を交わすハードルを下げる効果が期待できます。気がねなく考えを伝え合う場を設けることで、意見交換が活発化することはワークショップを活用する大きなメリットです。
決裁権をもつ人物を巻き込んで実施できる
決裁権をもつ人物も含めてワークショップに参加できることも、重要なメリットの1つといえます。ブランディングに関わるさまざまな部署・ポジションの人材が一堂に会して実施することで、ブランディングの方向性や戦略の決定に至ったプロセスを共有できるのです。
ブランディングの企画や戦略は、熟慮を重ねた結果としてアウトプットのみを提示しても理解されにくいケースが少なくありません。プロセスも込みで体験してもらうことにより、有意義な提案とスムーズな決裁が実現できる可能性が高まります。
合意形成をスピーディーに図りやすくなる
チーム内・プロジェクト内の合意形成を迅速化できることも、ワークショップを取り入れるメリットの1つです。協働作業を通して合意形成に必要な土台が築かれるため、結果として合意形成を図る際にスムーズに進みやすくなるでしょう。
ブランディングに関する認識のずれは、メンバー間での意見対立など具体的なトラブルが発生するまで表面化しにくいケースが少なくありません。プロジェクトの初期段階でワークショップを開催しておくことにより、意思統一を図りやすくなることは大きなメリットといえます。
ブランディングに向けたワークショップの進め方
ブランディングに向けたワークショップの進め方について解説します。ワークショップは大人数で開催すると作業がしにくくなってしまうため、人数が多い場合には5〜6名のチームに分かれて進行するのがおすすめです。具体的には、次の順序でワークショップを進めていきましょう。
1. 各自の考えを共有する
ワークショップの冒頭では、まず参加者各自が現状感じている課題や自社の強みについて意見を出し合い、お互いの考えを共有しておくことが大切です。その際、他の参加者の発言を遮ったり、発言内容に対して反論したりするのはNGと事前にルールを決めておきましょう。自由闊達に考えを言える雰囲気で進行するのがポイントです。
参加者から出された意見は、自社の過去・現在・未来にそれぞれ色分けして付箋に書いていきます。有益な意見かどうか、協働作業に必要なアイデアかどうかをこの時点で判断する必要はありません。できるだけ多くの意見やアイデアを出し合うことを最優先してください。
2. 課題を整理する
意見やアイデアが一通り出されたら、次に自社の課題を整理していきます。付箋に記載した事項の因果関係をグループごとに考え、原因と結果に分類しましょう。
各自の考えをランダムに出し合った時点では、因果関係を明らかにするための要素が欠けていることも想定されます。不足している点については付箋を追加し、原因と結果が紐付くように整理するのがポイントです。
3. ゴールを設定する
課題の整理が終わったら、現状を踏まえた上で自社ブランドが目指すべきゴールを考えていきます。ゴールは未来の姿となるため、前例やエビデンスにもとづく検証ができないケースが少なくありません。チーム単位でブレインストーミングを実施し、各自が理想とするブランドの姿について意見を出し合っていくことが大切です。
現状を起点に考えると、荒唐無稽に思えるブランドのあり方がアイデアとして出される可能性も十分にあります。実際の戦略や施策に落とし込むことがワークショップ開催の趣旨ではないため、お互いの考えを認め合い、相手の意見を安易に否定しないことが重要です。
4. 理想とするブランディングのあり方を言語化する
ブレインストーミングの結果を集約し、求められるブランディングのあり方を端的な言葉で表現しましょう。一言に集約できるのが理想ですが、文章形式でも構いません。重要なポイントは表現方法ではなく、協働作業を通じて言語化されたブランディングのあり方を参加者各自が共有できるかどうかことです。
ここで考案するブランディングのあり方は、対外的な施策で実際に活用するキャッチコピーではありません。あくまでもワークショップ内での成果物という点を間違えないようにしてください。
5. チームごとに発表し、総括する
最後に、各チームが考えたブランドのあり方を発表し、総括します。発表内容に優劣をつけるのではなく、あくまでもブランディングの方向性や捉え方を共有するための場として発表を活用してください。
必要に応じて、ワークショップ全体を客観的な視点で観察するオブザーバー役を決めておくのもおすすめの方法です。ブランディングチームの責任者など適任者がいるようなら、オブザーバーが総括することでワークショップ全体の成果が見えやすくなるでしょう。
ワークショップ実施後にやるべきこと
ワークショップは開催すること自体が目的ではなく、あくまでもブランディング戦略や施策の構築につなげるための足掛かりとして位置づける必要があります。ワークショップ実施後には、具体的にどのようなことに取り組むべきでしょうか。順を追って見ていきましょう。
ブランドのあるべき姿をパーパスに集約する
ブランドのあるべき姿を集約したものを「パーパス」といいます。ブランディングを実効性のある戦略や施策へと落とし込んでいくには、生活者にとってのブランドの存在意義や役割を定義し、パーパスとして掲げることが重要です。
ワークショップを通じて総括されたブランドのあり方を、さらにブラッシュアップしてパーパスへと集約させましょう。ここで定めたパーパスがブランディングの土台となり、ブランドとしての一貫性を保つための原点となります。
ブランドステートメントを作成する
次に、パーパスに則ってブランドが目指す姿を外部に向けて発信するための「ブランドステートメント」を作成しましょう。具体的には、自社ならではのブランド「らしさ」を文章で簡潔に表現し、一般の人にもわかりやすい形にまとめる必要があります。
ブランドパーパスが社内向けであるのに対して、ブランドステートメントは対外的に公開していくためのものです。ブランディング施策においては、ともするとブランドステートメントから考え始めてしまうケースが少なくありません。しかし、ここまでに見てきたとおりブランドステートメントの背景にはブランドパーパスが存在し、ブランドパーパスの背景にはブランドの「あるべき姿」が確立されている必要があるのです。
ブランドパーソナリティを設計する
ブランドパーソナリティとは、ブランド独自の特徴を人間の個性や人格のように表現したものを指します。対人関係において相手に与える印象が複合的な要因によって決まるのと同様に、ブランドイメージもまた複数の要因が絡み合って決定づけられるものです。よって、ブランドパーソナリティを設計することは「どのようなブランドなのか」を想定どおりに認知してもらう上で非常に重要なポイントといえます。
具体的には、「信憑性」「記憶性」「価値」「信頼性」「説得力」の5要素を軸にブランドを人格化していきましょう。
・信憑性:企業文化や自社独自の強みなどの裏付けがあるか
・記憶性:インパクトがあり記憶に残りやすいか
・価値:独自の価値を提供可能か
・信頼性:事実にもとづいているか、誇張していないか
・説得力:上記の4要素を総合的に見た場合、説得力があるか
可視的ブランドメディアを形成する
ブランドを表現するメディアには「抽象的ブランドメディア」と「可視的ブランドメディア」の2種類があります。前述のブランドパーパスやブランドパーソナリティなどは、抽象的ブランドメディアの一例です。可視的ブランドメディアとは、これらを具体的な「表現」として形成したものを指します。
たとえば、ロゴやキャッチコピー、パッケージデザインといった具体物は、いずれも可視的ブランドメディアに含まれます。ここまでのプロセスを通じて十分な吟味と検討を重ねた結果、はじめて可視的ブランドメディアの制作に着手できるのです。ブランディングと聞くとロゴの制作やパッケージデザインの検討を連想しがちですが、可視的ブランドメディアはブランドの「あるべき姿」について検討を重ねた結果、形を結んだものであるべきでしょう。