画像生成AIによってつくられたコンテンツの中には、人が通常考えつかないような構図やビジュアルのものが含まれているケースがあります。生成AIはすでに人が制作するコンテンツを「模倣」する範疇を超え、人間とは異なるベクトルへと進化を遂げつつあるのです。
AIが生成したコンテンツをそのままクリエイティブへと利用できるかどうかはともかく、アイデアの幅を広げるという意味においては有意義な活用の仕方ができる可能性があります。たとえば、画像生成AIに素案を大量に生成させ、それらの提案からヒントをくみ取ることはできるでしょう。身体性を伴わないAI特有の表現は、ともすれば多くの人に違和感を与えるかもしれません。見方を変えれば、従来は考えつかなかったアイデアを得られる可能性もあるのです。
制作工数の削減による効率化
生成AIを活用することで、人が描けば膨大な時間を要する作画をわずか数十秒でこなせます。制作工程を大幅に削減し、効率化できる可能性を秘めているのです。
たとえば、デザインの素案をデザイナーに依頼する場合、ラフであっても制作には一定の時間を要するはずです。一方、生成AIであれば何点でも欲しいだけ素案を制作できます。制作を依頼する側としても、相手がデザイナーであればデザインの修正や描き直しに関して遠慮や妥協が生じかねません。これに対して、相手がAIなら躊躇することなく何度でもやり直しができるのです。試行錯誤をためらいなく繰り返せるようになることで、結果として制作物がよりいっそうブラッシュアップされていく可能性は十分にあるでしょう。
生成AIを活用した企業のプロモーション事例
プロンプトを頼りにユーザーの意図を推測し、学習データを組み合わせてアウトプットする生成AIの特性を効果的に利用した、プロモーションの事例を紹介します。
ある調味料メーカーでは、自社製品に関するあらゆるプロンプトを生成AIに与え、それらの情報を元に製品の外観画像を生成させました。生成された画像は同社の製品イメージや特徴を捉えたものでしたが、いずれの画像も本物の製品とは少しずつ異なっていたのです。
同社ではこの興味深い結果を逆手に取り、「本物であることの重要性」を強調するプロモーションへとつなげました。生成AIに特有の不確実性に対して人間が独自の解釈を加えたことにより、ユニークなプロモーションを実現した好例といえるでしょう。
生成AIのブランディング活用の現在地と今後の展望
生成AIのブランディング活用について、現状と今後の展望を考えていきます。生成AIの活用を検討している事業者の方は、自社が想定している活用方法のブラッシュアップに役立ててください。
目新しさはあるものの一過性の試みに終始しがち
生成AIのブランディングへの活用は、現状では事例が少なく目新しいものとして多くの生活者に映る可能性は十分にあります。一方で、前章にて紹介した調味料メーカーの事例においても顕著であるように、「生成AIが駆使されている」といった一過性の話題づくりに寄与したとしても、持続的なブランディング施策として功を奏するかどうかは不透明です。
したがって、少なくとも現状では、生成AIの活用が中長期的なブランディングにつながるかどうかは未知数と言わざるを得ないでしょう。生成AIのブランディング活用はあくまでも単発の施策と捉え、持続的な効果を過度に期待しないことが大切です。
ストーリーや文脈を考慮した発信が必要
ブランディングを成功させる上で「ストーリー」や「文脈」は欠かせない要素です。生成AIを活用していない従来のブランディング施策のうち、こうしたストーリーや文脈が長年にわたって効果を発揮している事例を紹介します。
和菓子の製造・販売を手がける老舗メーカーでは、伝統的な和菓子づくりの技術を重要なブランディングの軸として位置づけてきました。商品にはパッケージも含めて日本特有の自然の美しさや季節の移ろいが表現されており、それらが老若男女を問わず人々の心を捉え続けているのです。
こうした格式の高さや顧客の心の奥深くに刻まれている信頼感は、短期間で容易に「生成」できるものではありません。商品デザインのみならず、店舗での丁寧な接客、行き届いた店舗デザイン、贈答品として誰もが認める品質が総体となってブランドを形成しているからです。
現状の技術レベルを踏まえると、たとえ生成AIが進化しても伝統的な慣習・歴史といった長い時間軸を織り込んだストーリーを生み出すのは困難でしょう。多くの生活者の心を捉え、長年にわたって愛され続けるブランドを構築するには、人の介入が不可欠です。
「不確実性」や「違和感」がカギを握る
冒頭で述べたとおり、生成AIを支える技術の核心は「関連性を予測する」ことにあります。大規模言語モデル(LLM)は本質的に「確実性」「順応性」を重視している一方で、虚偽の文章をあたかも事実であるかのように生成する「幻覚(Hallucination)」と呼ばれる現象も数多く確認されているのが実情です。
こうした現象は、一般的には生成AI活用のリスクや注意点として喧伝されています。しかしながら、ブランディング活用という視点で捉えた場合、生成AIが生み出すコンテンツの「不確実性」や「違和感」が、人間には構築し得ない新たな感覚として受容されていく可能性は十分にあるでしょう。人間が感じ取る「意外性」をどこまでチューニングできるかが、生成AIのブランディング活用が実現するかどうかを決定づけていくのかもしれません。